2013年12月18日水曜日

俺はそんなに簡単に感動なんか、しない

先日ライブで自分が出演した次のステージで、ギタリストの秋山一将さんのバンド演奏に触れる機会があったのでメモを残したいと思います。素晴らしい内容だったからです。そしてミュージシャンである僕にしか出来ない分析と言語化があると思うから。もうひとつ、音楽家が「メッセージを伝える」って、こういうことだと改めて突き付けられたような気がしたから。

秋山さんはリズム&ブルーズ、ソウル、ジャズが自由に刺激しあっていた80年前後(フュージョン黎明期)に活動の最初のピークを迎えた「名ギタリスト」です。かなり早い時期に(二十歳前後の1978年)アルバムも発表していらしたのでキャリアは40年くらいということになります。天才の呼び声高く、日本で最初のエレクトリック・ギターヒーローの1人です。

1978年ってどんな音楽が巷に流れていたかというと・・歌謡界はキャンディーズが引退しピンクレディーに染まりサザンオールスターズがデビュー、ロックではQueenがJAZZというアルバムを出し、スイングジャーナルの金賞は「クンビア&ジャズ・フュージョン」でチャールス・ミンガス。企画賞に渡辺貞夫さんのカリフォルニアシャワーですよ。根拠のない勢いに満ちた世の中。

その後、景気はさらに上向き音楽は軽くなり、マイルズチックが電気楽器バンドで復活したり、ギタリスト諸君はジョンスコフィールドにショックを受けたり、ハービーはDJと踊る、ジャズは迷走しコンピューター音楽やワールドミュージックに答えを求め、逆に温故知新とばかり学究に向かっていきます。ご存知のあの浮かれた時代を迎えます。

僕が東京に出てきたのは1990年代の終わり頃ですが、秋山さんのお噂だけは風に伝え聞くことが何度もあり・・その調子はいまひとつ(なんてもんじゃなく)良くなかったようでした。秋山さんは、景気のいい時代ずっと世の中に背中を向けていらしたんじゃないかな。その強固な本能に従って。

時は流れて2013年の終わり。目黒区学芸大学のライブハウスにて。

秋山さんの演奏は秋山さんの「人生そのもの」でした。

頭の中で鳴っているサウンドを盤石のメンバーから引き出して、ギターはとても少ない音でひとつひとつ音を紡いでいく。後期マイルス・デイヴィス グループを思わせる浮遊感。(ドミナントコードの拡大解釈、ポリコード、トーナルセンターシステム)

秋山さんの訥々としたフレーズはLess is more。ピアノの森下滋は理解が深く攻守共に手厚い。リズム隊はJazzとR&Bを見事に忠実に踏襲してみせる。


が、それは序章だった。待っていたのは「ボーカルナンバー」だった。

Trashmen didn't get my trash today
Oh, why? Because they want more pay
Buses on strike want a raise in fare
So they can help pollute the air

But that's what makes the world go `round
The up and down, the carousel

Changing people, they'll go around
Go underground, young man
People make the world go `round

Wall Street losin' dough on ev'ry share
They're blaming it on longer hair
Big men smokin' in their easy chairs
On a fat cigar without a care

But that's what makes the world go `round
The up and down, the carousel
Changing people, they'll go around
Go underground, young man
People make the world go `round
(PIR/Philadelphia International Records)

今日はゴミの回収者が俺のゴミを持っていかなかったよ
何故かって?今の給料じゃ「やってられない」って
スト中のバス会社は運賃値上げを叫んでる
そうして、もっと公害を撒き散らしたいって

地球が回るって言うことは、そういうことなんだ
上下して、まるでメリーゴーラウンド
とっかえひっかえ人を乗せ換え、回りっぱなしのメリーゴーラウンド
地下だって見ておいでよ
こうやって地球は回っていくんだよ

ウォール街では株価が下がり、毎秒損している
やつらは髪が長くて、リラクゼーションチェアでふんぞり返り
暇さえあれば高級シガーを吸いまくっている
連中のせいにしているけど

地球が回るって言うことは、そういうことなんだ
上下して、まるでメリーゴーラウンド
とっかえひっかえ人を乗せ換え、回りっぱなしのメリーゴーラウンド
地下だって見ておいでよ
こうやって地球は回っていくんだよ


「ギャンブル&ハフ」が公民権運動の時代に書いたメッセージソング
"People make the world go around" (The Stylistics/1969)だ。

秋山さんの声は嗄れてまるでトムウェイツみたいに歌う。
素晴らしい。


最後の曲は照れくさそうにキャロルキングの
"Will You Still Love Me Tomorrow?"

Tonight you're mine completely
You give your love so sweetly
Tonight the light of love is in your eyes
But will you love me tomorrow?
Is this a lasting treasure
Or just a moment's pleasure?
Can I believe the magic of your sighs?
Will you still love me tomorrow?
Tonight with words unspoken
You say that I'm the only one
But will my heart be broken
When the night meets the morning sun?
I'd like to know that your love
Is love I can be sure of
So tell me now, and I won't ask again
Will you still love me tomorrow?
So tell me now, and I won't ask again
Will you still love me tomorrow?
Will you still love me tomorrow?
Will you still love me tomorrow?



「明日も同じ気持ちでいてくれる?」
会場では涙を流している人がたくさんいた。

音楽家だって俺だって世の中にいろいろ言いたいことはある。意見を伝えたい。物申したい、書きたい、叫びたい、人生について語りたい。じゃあそれをMCで言うのか。メガホンを持つのか?それなら音楽要らないだろ?って常々自分の「のどの奥に刺さった骨」が気になっていたんだけど。

秋山さんは独り黙々と、手品のように魔法のようにやってのけた。

みんな、秋山さんを「ああ懐かしい」とか、昔ライブ見たことあります、とか、CD聴いたなあ・・なんて言ってないで、今行って見て聴いてぜひ握手してきてください。

2013年のおわりに、こんな秋山さんのライブに触れることができて嬉しかった。
すべての巡り合わせに感謝します。



さて、、、自分のライブだ。




秋山一将(あきやまかずまさ)公式サイト
http://www7a.biglobe.ne.jp/~encore/akiyama/

参考
http://32970.diarynote.jp/?day=20111116
「ギャンブル&ハフ」の解説は吉岡正春さんのソウルサーチンがお勧めです。

対訳 http://fullforcegale.at.webry.info/200804/article_9.html

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